12月の静かな日曜日。
世界を凍らせたあの現場を見にきた人々は、ただただ、言葉少なに
その生々しい状況を眺めていた。そして、そっとハンカチで涙を押さえたり、
何事がつぶやいては、恋人とハグしあったり…。
そんな現場の傍らに、掲げられていたのは、大きな鉄の十字架。
これは、ツインタワーを長年支えてきた鉄骨で、
あの衝撃で偶然クロスの形に折れ曲がったもの。
無残な現場のなかにこのクロスを発見した作業員が、鎮魂の意味もこめて、掲げたのだという。
ここは凄惨な事故現場であり墓場であることに変わりはないけれど、この十字架が、
その魂にどうぞ光が差すように、と願う人々の祈りもいっしんに受けとめているのだった。
この場所で、
たくさんの人が、いろんな物語をつむいだ。
自力で脱出した人、死を自覚して、愛する人に最後の電話をかけた人、
みなをサポートし、勇気付けたビジネスマンもいれば、
当然、救出作業を行ったファイヤーマンもいる。
すべての物語と思いを飲み込んで、この十字架はすっくと立っている。
ココに眠る人たちの気持ちをしっかりうけとめている。
そしてきっと、彼らと対話するために訪れる遺族たちに、彼らの思いをささやくだろう。
vol.19 ●グラウンドゼロの鉄の十字架
グラウンドゼロにあったもの。
それは、
まだまだ埃が舞い上がるなかに
数階分が残るビルの残骸。
まるで
映画のセットのようだった。